「AIを入れたほうがいいのは分かる。でも、うちのどの仕事に使えて、どれくらい効果が出るのかが分からない」
AIの活用事例は検索すればいくらでも出てきますが、大企業の話が多く、自社に当てはめにくいものです。そこでLEAPSは、国内外のAI導入事例34件を、会社の発表や国の資料までさかのぼって集めました。そのうち7件は中小企業です。
この記事では、自社のどの仕事に使えそうかを業務の種類から探せる早見表と、中小企業が実際に何をしたか、そして最初に何から始めればいいかをまとめます。
この記事は、公開情報をもとにした調査です
紹介するのは各社が公表している事例で、LEAPSの支援実績ではありません。数字の多くは会社自身の発表で、うまくいった例が中心です。
自社のどの仕事に使えるか:業務の種類別の早見表
34件を「AIに何をさせたか」で10種類に分けました。業界ではなく、仕事の形で見てください。建設会社の事例でも、「過去の記録から調べものをする」仕事なら、ほかの業界でも同じように使えます。
右端の列は、その種類の事例でAIを入れる前からそろっていたものです。自社にも同じものがあれば、当てはまる可能性が高いと言えます。
| 業務の種類 | 主な事例 | 代表的な効果 | 前からそろっていたもの |
|---|---|---|---|
| 書類・プログラムを作る | 岡田研磨、クリーンシステム、eWeLL、大成建設、明治安田生命、ちばぎんコンピューターサービス | 社内の作業 月約530時間減(岡田研磨) | 過去の書類や記録がデータでたまっていた |
| 入力・記録する | 花王 | 伝票の入力 月200時間のうち約147時間減(ある工場) | 伝票に書く項目と、入力先のシステムが決まっていた |
| 調べる・探す | 大林組、竹中工務店、清水建設、北野建設 | 法令の確認 1人週4.3→1.4時間 | 過去の検討記録やマニュアルがデータで残っていた |
| 検査・計算・判断する | 大林組、長谷工(2件)、神島化学工業 | 外壁タイル検査の手間 約65%減 | 検査の合格基準や、ベテランの判断の仕方が決まっていた |
| 数や条件を決める | トーシンパートナーズホールディングス、野嵩商会、ライフ、ヤオコー、ファミリーマート、ゑびや | 発注の作業 1店舗1日5→3.5時間(野嵩商会) | 過去の売上や取引のデータがたまっていた |
| 人や車の配置を決める | ヤマト運輸 | 荷物1個あたりの輸送費 約10%減 | データ活用の専門部署と担当役員を置いていた |
| 営業・広告に使う | オプトサイエンス | 広告からの問い合わせ 月平均5件→多い月で45件 | 社長が自ら使い、事実を確認するルールを決めていた |
| 問い合わせに答える | 三菱UFJ信託銀行、みずほ銀行、Klarna、Crescendo | 社内問い合わせの対応時間 50%減(三菱UFJ信託銀行・試験運用) | 答えの元になる仕様書やマニュアルが整っていた |
| 会社全体で使う | 大成建設、鹿島建設、パナソニック コネクト、GMOインターネットグループ | 年78.8万時間減(パナソニック コネクト・推計) | 経営者が先頭に立ち、研修や測り方をそろえていた |
| 会社ごと作り変える(海外) | Crete、Minerva、Long Lake | 会社自身の発信が中心 | 会社を買い、仕事のやり方を変える権限を持っていた |
表の34事例を、1事例1ページで読めます
自社に近い行が見つかったら、その事例のページで導入前と導入後の比較、効果の数字、うまくいった理由まで確認できます。資料の早見表には、事例ごとのページ番号も載せています。
導入前と導入後で、仕事はこう変わった
毎日くり返す仕事ほど、変化がはっきり出ています。
| 会社 | 導入前 | 導入後 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 花王 工場のパレット伝票 |
月に数万枚の伝票を人が打ち込んでいた | AIが読み取って入力し、人は結果を確認する | 月200時間のうち約147時間減 (ある工場) |
| 野嵩商会 食品スーパーの発注 |
売り場ごとに担当者が経験で発注していた | AIが発注数を提案し、担当者が確認する。発注の担当者の人数も減らせた | 1店舗1日5→3.5時間 |
| ヤオコー 食品スーパーの発注 |
ベテランが時間をかけて発注数を決めていた | 棚の配置やセールも加味してAIが発注数を提案する | 1日の発注入力 約3時間→約25分 (実証した2店舗) |
| 大林組 設計時の法令確認 |
設計者が法令・条例を自分で調べていた | AIが法令と過去の検討記録から注意点を洗い出し、設計者が確認する | 1人週4.3→1.4時間 |
どれも、AIが下書きや提案を出し、最後は人が確かめる形で紹介されています。全部をAIに任せたわけではありません。
中小企業は、何をしたのか
大企業の事例は、専門の部署や大きな予算があってのことです。ここでは、従業員が数十〜100名ほどの会社の事例を、何に困っていて、誰が中心になり、何をしたかの順に見ていきます。
岡田研磨(石川県・金属加工・85名)——専務が自分で社内の仕組みを作った
- 困っていたこと——図面などの情報を紙とExcelで管理していて、転記や集計、資料探しに1〜2時間かかることもあった
- 誰が——IT企業の営業出身の専務。約2年、AIとの対話を重ねて腕を磨いた
- 何をしたか——生成AIでプログラムを書き、検査・在庫・生産・原価など30以上の社内アプリを1つにまとめた。若手のチームがまず試し、現場の声で直し続けた
- 結果——社内の作業が月約530時間減り、紙の資料も月5,000〜6,000枚減った
エンジニアがいなくても、自社の仕事をよく知っている人がAIを使えば、自社に合う仕組みを作れるという例です。ただし、2年という時間をかけています。
クリーンシステム(山形県・解体・廃棄物処理・109名)——小さな困りごとを1か月で片づけた
- 困っていたこと——請求書の発送に、毎年決まった費用がかかっていた
- 誰が——新しく作ったデジタル推進の部署と、そこに置いた専門の社員
- 何をしたか——生成AIを使って、請求書を一括で送る仕組みを約1か月で社内で作った。社内向けのAIを、社員がプログラムを学ぶための先生としても使った
- 結果——請求書の発送費用が年約108万円減った
大きな仕組みではなく、毎年お金が出ていく小さな作業から手をつけています。1か月で結果が出る規模なので、社内で説明もしやすい進め方です。
オプトサイエンス(光学機器の輸入商社・33名)——社長が最初に使った
- 困っていたこと——営業が英語の論文を自分で読んで説明文を作っていた。広告作りも手探りだった
- 誰が——社長が率先して使い、社内で勉強会を開いた
- 何をしたか——論文の要約や翻訳、広告に出す商品選びやキャッチコピーのたたき台をAIで作り、営業が仕上げる形にした。AIの出力は必ず事実を確認するルールにした
- 結果——広告への反応が平均で2倍以上になり、広告からの問い合わせは月平均5件程度から、多い月で45件になった
30名ほどの会社では、社長が自分で使うと、社内に早く広がります。事実を確認するルールを先に決めたことで、AIの間違いをそのまま外に出さずに済んでいます。
トーシンパートナーズホールディングス(不動産・49名)——たまっていたデータを使った
- 困っていたこと——賃貸物件の空室を、できるだけ早く埋めたかった
- 誰が——会社として取り組み、社員向けにデータ分析の研修を行った
- 何をしたか——過去の賃貸契約のデータでAIを作り、最適な募集条件を提案させた
- 結果——平均空室期間が11日短くなり、空室による損(不動産でいう不稼働損)が年約4,700万円減った。家賃の値上げも同時に行っている
新しくデータを集めたのではなく、仕事の中で自然にたまっていた記録を使っています。
ゑびや(伊勢の食堂・土産物店)——勘で決めていたことを予測に変えた
- 困っていたこと——手書きの食券とそろばんで商売をしていて、仕込みの量や人の配置は勘で決めていた
- 誰が——経営者が自らデータ分析を学んだ
- 何をしたか——来店客の数をAIで予測し、仕込みの量と人の配置を決めるようにした。予測→仕込み→答え合わせを毎日くり返した
- 結果——従業員1人あたりの年間売上が396万円から1,073万円になった。店の改装なども同時に行っている。予測の仕組みは、他社向けの商品にもなった
5社から見えること
- 経営者か役員が、自分で手を動かしている(岡田研磨、オプトサイエンス、ゑびや)
- 最初の対象が、社内の具体的な困りごと——請求書の発送、転記、空室、仕込みの量
- 学ぶ時間を取っている——2年の試行錯誤、研修、勉強会
中小企業の7事例は、資料ですべて読めます
この記事で紹介したのは5社です。資料には中小企業の7事例すべてを、同じ形の1ページずつでまとめています。自社と近い規模の会社が何をしたかを、並べて比べられます。
任せすぎると、戻すことになる
逆の例もあります。スウェーデンの後払い決済会社Klarnaは、2024年にお客様からのチャットの3分の2(700人分)をAIに任せ、解決時間を平均11分から2分未満にしたと発表しました。ところが品質が下がり、2025年には人による対応に力を入れ直したと報じられています。
お客様と直接やりとりする仕事では特に、AIで対応しきれないときに人に代われる道を残しておく必要があります。
自社に当てはまるかのチェック
ここまでの事例で、AIを入れる前からそろっていたものを確認項目にしました。当てはまる数が多い業務ほど、事例に近い効果が期待できます。
| 確認すること | 近い事例 | |
|---|---|---|
| 1 | その仕事の過去の記録が、データで残っているか 紙やExcelに散らばっていても、1か所に集められるなら可 |
大林組、トーシン、ゑびや |
| 2 | 書式や手順が決まっているか 伝票、日報、決まった書類、決まった検査の基準など |
花王、長谷工、大成建設 |
| 3 | AIの出したものを確かめる人が決まっているか | 花王、野嵩商会、オプトサイエンス |
| 4 | 毎日・毎月くり返している仕事か 回数が多いほど、減る時間も大きくなる |
野嵩商会、ヤオコー、花王 |
| 5 | 経営者か役員が、自分で試す時間を取れるか | 岡田研磨、オプトサイエンス、ゑびや |
1〜4がそろっている業務が、最初の対象の候補です。5は、社内に広げる段階で効いてきます。
何から始めればいいか
候補の業務が決まったら、今どれくらい時間がかかっているかを先に測っておきます。導入前の数字がないと、効果があったのかどうかを後から説明できません。社内で予算を通すときにも、この数字が要ります。
1種類の伝票で小さく試す例
たとえば紙の伝票の入力なら、次のように試せます。これはLEAPSが提案する進め方の例で、上の事例の実績ではありません。
- 対象を1種類に絞る——いちばん枚数の多い伝票1種類だけにする
- 今のやり方で2週間記録する——枚数、1枚あたりの入力時間、見直しと手直しの時間、入力の間違いの数
- AIで読み取れるか確かめる——AI-OCRなどの読み取りサービスが、その伝票の書式に対応しているか、読み取った結果を今の入力先に取り込めるかを、試用で確かめる
- 同じ条件で2週間試す——AIの読み取り結果を人が確かめる形にし、同じ項目を記録する
- 確認の時間を含めて比べる——入力の時間だけでなく、確かめる時間と間違いの数も含めて、合計で減ったかを見る
確認の時間を入れずに比べると、効果を大きく見積もってしまいます。花王の事例でも、人は読み取り結果の確認に回っています。確認の時間を含めて減っていれば、伝票の種類を増やします。
ベンダーから導入事例を見せられたときも、「導入前は何時間だったのか」を聞くと、自社と比べやすくなります。
測った数字を社内の説明にどう使うかは、AI導入の稟議を通すために用意した資料の中身で扱っています。入れたのに使われない状態を防ぐには、社内AI導入が定着しない会社に共通する3つの構造も参考になります。
34事例を1事例1ページで読める資料があります
国内外の34事例を、業務の種類ごとに並べた全46ページの資料です。自社の業務に近い事例を早見表で探し、そのページだけ読む使い方ができます。社内でAIの導入を提案するときの材料にもお使いください。
この記事について:調査・執筆は株式会社LEAPS。2026年9月に行った調査の要約です。業務の分類、「前からそろっていたもの」「共通していたこと」「チェック」は、各事例の発表を読んでLEAPSがまとめたものです。事例の収集と整理、本文の作成にはAIを使い、主な数字は下記の元の資料で確認しています。
行政の資料:中小企業庁「2026年版中小企業白書」(2026年4月24日閣議決定)事例2-2-3(オプトサイエンス)、事例2-2-14(岡田研磨)/経済産業省「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025(DXセレクション2025選定企業レポート)」(2025年3月公表。クリーンシステム・トーシンパートナーズホールディングス・eWeLLはDXセレクション2025の選定企業のため、この版を参照)/J-Net21(中小企業基盤整備機構。ゑびや)
会社の発表・報道:花王(LNEWS 2026年6月30日、LOGI-TODAY 2026年7月1日。AI提供会社の発表をもとにした記事)/大林組 プレスリリース(2026年8月19日)/野嵩商会(ブライセン プレスリリース 2026年5月15日)/ヤオコー(日立製作所 ニュースリリース 2023年2月21日)/長谷工コーポレーション プレスリリース(2025年9月17日)/大成建設 プレスリリース(2025年11月28日)/三菱UFJ信託銀行・カサナレ ニュースリリース(2024年8月2日)/ヤマト運輸(ITmedia NEWS 2021年10月28日)/パナソニック コネクト プレスリリース(2026年7月29日)/Klarna プレスリリース(2024年2月27日)、Bloomberg(2025年5月8日)



